大判例

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東京高等裁判所 昭和30年(う)3269号 判決

被告人 山内幾男

〔抄 録〕

弁護人論旨第二点、及び第三点。

原判決挙示の証拠を検討するに、この証拠によつて原判示被害者西口昭男、同羽馬義弘、同和田明彦の三名が原判示日時場所において原判示財物を何人かに窃取された事実は明らかにこれを肯認することができるが、これが犯人が被告人であると直接に明認できるものは全く存しない。然しながら、犯罪事実を認定する証拠は必ずしも直接証拠によらなくとも間接的な情況証拠であつても差し支えなく、殊に窃盗罪などにおいて犯人と目される者が盗賍品を所持していてその所持する合理的な根拠が証明されない限りその者をその窃盗犯人と推認することも決して不合理な不当な認定ではない。本件において被告人が右窃盗犯人なりとされるのは、原審が証拠に採用しなかつた昭和三十年二月二十三日付被告人の検察官に対する供述調書(原審第八回公判期日において検察官が弁護人の同意を得て提出し原審はこれを採用適法に証拠調を了している。尤も右公判調書には同日付司法警察員に対する供述調書とゴム印をもつて記載されているが記録を精査するもこのような供述調書は他に存しないから右の司法警察員とあるは検察官の誤記と認められる。)のみであつてその他には全く存在しないのであるけれども、被告人が原判示第一の盗難品の一部である被害者西口昭男所有の身分証明書を所持し後記盗難品を堀井質店に入質する際この証明書を呈示し自ら西口昭男と称していた事実、原判示第二の盗難品紺色大型ダブルオーバー一着及び原判示第三の盗難品茶色手提鞄一個を所持しこれを自己のものとして前記堀井質店に入質している点右質店においてその判取帳に入質の際西口昭男であるとして押捺した拇印が被告人のものであることは原判決挙示の証拠により明らかである。そして被告人は被告人が右物品を所持するに至つたのは榊原某なる者から買い受けたものであると極力弁疏するのであるところ、被告人に対する当審における質問において、検察官の提出した弁解録取書における被告人の自白の記載の点に対する弁解が瞹昧である点被告人が右榊原から前記オーバーを自分で着る目的で買い受けたとしながら直ちに、入質しその言動自体矛盾する点、被告人が右榊原から買い受けるところを傍で見ていたと称する原審竝びに当審における証人林光雄の証言によつても同人は被告人と右榊原と称する男との間に単に現金のやりとりがあつたのを見たに過ぎず、その間に如何なる問答があつてオーバーの授受があつたか不明である点、被告人と右証人との交友関係は幼少の頃からといい被告人の昭和二十九年十月頃が最初ではないかとの質問に対し瞹昧な返答をしている点等より直ちに同人の証言を全面的にこれを措信するに足りる心証を惹起しないものであることが判明するのでこれらの事柄を総合して原審における審理の経過竝びに提出された諸般の証拠を考察するときは、果して右榊原なる者が現実に存在していたものかどうか疑わざるを得ないし、被告人の前記弁疏の合理的な真実性を肯認するに足りる的確な証拠は一つも存しないのであつて、前記被告人の所持していたことの明らかな西口昭男名義の身分証明書、羽馬義弘所有の紺色大型ダブルオーバー一着、和田明彦所有の茶色手提鞄はいずれもそれぞれ原判示第一乃至第三に挙示した他の物品と同一場所において同一機会に盗難にかかつたものであることは記録上明らかであるから、右盗難品全部につき被告人において窃取したものと推認するも冒頭に述べたとおり決して不合理な判断ではないわけである。然らば原判決がその挙示する証拠によつて、原判示三箇の窃盗の事実を認定したのも正当であり又証拠説明を逐一詳細にすることは現行刑事訴訟法の要求するところではないのであるから原判決の証拠の標目の挙示は適法であつて所論のように証拠理由に不備あるものでもなく、又証拠によらずして犯罪事実を認定した違法も存しないのみならず、判決に影響を及ぼすべきことの明らかな事実誤認も存しない。

(大塚 渡辺辰 江碕)

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